とある国のおとぎ話
君だけを
「あのね。本当はどうでも良いの。孤児とか、この国とか。どうでも良くないけど。そうだけど、私にはもっと叶えたいことがあって」
俺は視線を合わせることはなかったけど、ユエは真っ直ぐに俺を見つめていたのは分かった。
だからこそ、顔を上げなかった。
「私は冬馬くんが、飢えにも苦しまず、略奪にも怯えないで済むような普通の。遠い昔だったら普通だったはずの。そういう生活を送って欲しいの」
虚を突かれた。
そのせいで、彼女へと顔を向けてしまった。
それが呪縛だった。
菫色の瞳がまっすぐに俺へと注がれ、身動きが取れなくなる。
「絶対に、冬馬くんだけは私が守るから。冬馬くんと別れることになっても、冬馬くんが幸せなら頑張れるから」
この瞬間、本当に囚われたんだと思う。
死んでもずっと纏わりついて離れない呪縛だと思った。