とある国のおとぎ話



 傀儡政権のこの国で実質権力を握る軍の中で、確固たる地位を手に入れたはずなのに。


 どうして、昔と同じく不甲斐なさを感じるのだろう。


 願うことも祈ることも、いつか思い出せぬほど昔にやめた。


 願っても、祈っても、何も変わらない、絶望を招くだけだと知ったから。


 だから、やめた。


 そして、士官学校に入ると決めた時、誓ったのだ。


 ユエのことを守ると。


 自分自身に誓ったのだ。


 願うことも、祈ることも役立たず。


 だからこそ、自分の命を懸けて守ってみせると誓った。


 己の全てを懸けると。


 そのためだったら、血にまみれることも、汚れることも厭わない。


 平気で人を裏切れたし、恨みや妬みを買ったとしても、何とも思わなかった。


 幾許かの自由と良心を引換えに、彼女の身の安全は保障された。


 飢えにも略奪にも怯えない暮らしでは足りない、彼女があの男に夢を託したのなら。


 彼女が夢見た世界をあの男が作るというのなら、何でも協力してきた。




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