とある国のおとぎ話
「ね。総統が言ってた神様のお話。もし、私が元神様だったらね」
菫色の瞳が俺の身を縛る。
これこそが呪縛だ。
「きっと、どんな世界でも、結ばれなくても、不幸じゃないと思う。だって、自分の傍にいてくれるだけで、それだけで良いって思うの」
「……如月らしい考え方だ」
これが精一杯だった。
今の自分の精一杯だった。
これから彼女の顔が悲しみに染まるのを知っていながら、何もできない。
やがて、藤崎とサラの裏切り、そして死を知ることになるだろう。
開戦前の反乱軍殲滅はもはや決定事項だ。
いずれ、俺をあの男は指名してくる。
かつての仲間と恋人を討つことに躊躇いはない。
ただ、如月は苦しむ。
あいつらの死と俺が手を汚すことに。
俺の汚れきった手をあかぎれた手で握り、涙を流す。
護衛の敬礼を目で受け止め、フロアを出ると、冷たい空気が流れ込む。
終わりのない冬と離れることがない現実は同じ。