とある国のおとぎ話





「ね。総統が言ってた神様のお話。もし、私が元神様だったらね」



 菫色の瞳が俺の身を縛る。


 これこそが呪縛だ。



「きっと、どんな世界でも、結ばれなくても、不幸じゃないと思う。だって、自分の傍にいてくれるだけで、それだけで良いって思うの」



「……如月らしい考え方だ」



 これが精一杯だった。


 今の自分の精一杯だった。


 これから彼女の顔が悲しみに染まるのを知っていながら、何もできない。


 やがて、藤崎とサラの裏切り、そして死を知ることになるだろう。


 開戦前の反乱軍殲滅はもはや決定事項だ。


 いずれ、俺をあの男は指名してくる。


 かつての仲間と恋人を討つことに躊躇いはない。


 ただ、如月は苦しむ。


 あいつらの死と俺が手を汚すことに。


 俺の汚れきった手をあかぎれた手で握り、涙を流す。


 護衛の敬礼を目で受け止め、フロアを出ると、冷たい空気が流れ込む。


 終わりのない冬と離れることがない現実は同じ。



< 49 / 63 >

この作品をシェア

pagetop