とある国のおとぎ話
――あの子のことを愛しているの?
あの翡翠の目を思い出す。
愛している、とそう思えたのならどんなに楽だっただろうか。
そんな甘くて、単純で、明らかな答えが導き出せる存在だったなら、こんなに苦しむことはなかった。
母親のようであり、姉のようであり、妹のようであり、親友のようであり、恋人のような存在。
好きだとか、愛してるだとか、そんな言葉で表すことができたのなら、未来は違ったのだろうか。
ただ、大事なのだ。
願うことも、祈ることもやめた。
自分の幸せも、自由も、命も興味はない。
彼女がただ大事なのだ。
全てを賭して守って見せる。
だから、まだ俺は死ねない。
冬の牢獄に靴の音が響かせ、進み続けるのだ。
たとえ、そこが安らぎの場でなくとも。