とある国のおとぎ話
「……何故、二人して黙っていた?」
怒りなどない。
ただ、驚き呆れるばかり。
「敵を欺くには味方からでしょ!津上少佐を殺そうとしたことで、花里さんも藤崎少佐も完全に信用してますから、彼女の仕事も楽になったみたいです」
ギリギリの賭けだ。
それこそ、本当に死んだかもしれない。
しかし、生きている。
それこそが、真実で現実。
「まったく。末恐ろしい」
ずるずるとソファーに沈み込む俺を見て、楽しそうに微笑む喜楽。
「女性って怖いですよね。この世で一番怖いです」
「それを言うなら、人間だろ」
本当に恐ろしいのは人間。
生きて汚れていく人間というものが恐ろしい。
それだけ言うと、お互いに黙った。
窓から見える、冬に閉ざされた死を眺める。
「本当に、汚れきった世界ですよね。汚くて、臭くて、本当に最悪」
そんな世界と同じような口調で言う喜楽。
でも、俺はそうは思わない。
「薄汚れてはいるな」
「薄汚れているですか?」
「そうだ。俺にとっては、こんな世界でも生きている価値がある」
「まぁ、それなら僕は少佐にお供しますよ」