とある国のおとぎ話
「お前さ、やっぱり向いてないぞ、軍人」
俺の言葉が届いてないのか、彼女は黙々と俺の包帯をほどいていく。
心地よい静寂の時間が幾何か享受していると、視線は俺の腕に向けたまま話し出す。
「……今度は北上するのかな。きっとそうだよね、あそこにはリバンクール城の…」
「如月。自分の役割を忘れるな。お前は総統の補佐官で、今は」
「もう!わかってます!!新体制に滞りなく移行できるよう取り計らうことが私の役割であります。一色少佐!」
やけくそ染みた言い方がさっきの暗い声とは対照的で何だか安心して、俺は笑った。
「そうだ。如月大尉は戦時に目を向ける必要はない、もっと大事な役割がある。これからのこの国の未来の基盤を考えていく存在なんだ。この戦争に勝つのは坂月総統だ」
「………でも、戦が起これば幼い子たちは為すすべもなく死んでいく」
共和国との開戦を聞いた時の彼女は唇を噛みしめて、何かを堪えていた。
仕方がないことなんだ、そう繰り返すことしか俺にはできなかったし、彼女もそれを知っていた。
戦は何も生み出さない、そう考える彼女には、北東の地を手中に治め、気候資源の一部が自国のものになったことを喜ぶ国民たちの声は複雑であり、敵国である民のことを憂いていた。