とある国のおとぎ話
「もう後戻りはできない。だからこそ、未来に目を向けるべきなんだ。俺たちのような孤児をなくすんだろ?雪に閉ざされた世界は終わって、春が巡るようになる。ずっと昔、お前は俺に聞かせてくれた夢のような話が実現するんだ」
かつて、俺の凍り付いた手を彼女は必死に温めようとやっぱり同じく凍り付いた手で俺の手を包み込んだ。
いつか、春が来ると。
春を知らない国に生まれながら、彼女は春についてたくさん知っていた。
憧れなのだろう。
「お花、っていう良い香りがするものがあって、小さな生き物もたくさんいて、水は凍ってなくてね、寒さに震えることもないんだって、風が寒くないなんて、どんなだろうね?ね?冬馬くん。そうしたらきっと、こんな思いしなくて済むから、その時が来たら、あの時は大変だったね、って泣いていいから、今は春を待ちながら笑ってよう?」
俺にとっては、春とはこの彼女の手の温もりで、彼女そのものだった、今も昔も。
「やっぱり、冬馬くんってすごい!さすがは天賦の才に恵まれた少佐って呼ばれているだけある!」
「お前がバカなだけだ」
「むっ。ケガをする冬馬くんのほうがバカです」
そう言いながら新しい包帯を巻き終えると、俺の手を両手で包み込み、頭を下げた。