とある国のおとぎ話
この男は言葉一つで、俺の反逆の心を芽生えるたびに打ち砕いていく。
俺はこの男に銃を向けることはできない。
「……もう、下がらせていただいてよろしいでしょうか?」
男は俺の反応に気を良くしたかのように、優雅に笑んだ。
「一色少佐。ご苦労であった下がりたまえ」
威厳ある声に、最上級の敬礼をし、踵返す。
最初に軍礼を見た時、ぼんやりと見事だなと思ったことがあったような気がする。
そう思っていた敬礼が、今では自分もしっかり身についてしまった。
敬礼も軍服も、この男にも慣れないのに、身についてしまった。
紋章が描かれた重いドアを開ける。
牢獄のドアの先には、やむ気配のない吹雪が映された窓。
どこにいても、俺も彼女も牢獄の中。
その中でしか生きられないのだ。