とある国のおとぎ話
「春が来たって、冬馬くんがいない世界じゃ私には意味がない。あなたがいない世界で、どうすればいいのかわからない。だから、お願い。必ず生き抜いて。冬馬くんだけは必ず生き抜いて」
「……大丈夫だ。お前を残して死ねるかよ」
俺はこの時、菫色の瞳を眺めながら愚かにも夢を見てしまった。
自分の幸せを見てしまった。
彼女の隣に自分がいて笑いあっている未来を。
彼女が幸せになった時、俺は存在しないと罪を重ねてきた自分は彼女の隣にいることはないと知っていたのに。
自分の幸せを一瞬でも考えてしまったことに対する報いだろうか。
わからない。
そう、わからない。
ただ、わかるのは。
彼女は教えてくれなかった。
彼女はいつも、俺に問うばかりで教えてくれなかった。
彼女が死んだらどうすれば良いのかを。