とある国のおとぎ話
時が止まった瞬間
「……な、に?」
知らせが届いた時、一色少佐は笑った。
結構な時間を共にしているが、そんな顔を見るのは初めて。
ただ、笑ったことのない少佐の笑いは、あまりに不出来だった。
というより、救護部隊からもたらされた訃報への条件反射的な笑みだったのかも知れない。
僕がからかっていると信じたくて、その哀れで不出来な笑みを僕へと向けた。
目が揺らいで今にも泣きそうなようで、まっすぐ鋭く僕を見ているようでもあって。
つまりは、良くわからない、何とも言えないあやふやな顔を向けたのだ。
僕が首を横に振ると、次の表情を確認する暇もなく、身を翻した。
始まりと同じく、僕は少佐を追う。
安置室にたどり着くと、少佐は物体を抱き締め震えていた。
何もかもを捨てて、全てを捧げた少女だった物体をきつく抱き締めて。
彼女は許可なく、中央を抜け出した。
開戦になり、どうしても内部にいるだけでは入ってこない情報をさぐるため。
総統と一色少佐が隠し続けたが故に、不安が爆発したのだろう。
愚かな人間。
何も知らずに、ただ守られていれば良かったのに。
それができぬ愚かな女だった。
そして、愚かな女は、誰にも愛されぬ孤児をかばい死んだ。
誰よりも愛された人間であったのに、愛されぬ孤児をかばうなんて愚かだ。
彼女の死骸は悲惨なものだった。