とある国のおとぎ話
そんな中、残酷なことに顔だけは原型を留めていて。
「……おい。何とか言えよっ。バカだろ。てめぇには軍人なんか勤まらないって言っただろうがっ!!本当にバカだな。…バカ。…おい。何とか、言えよ。……ユエ…」
一色少佐は語らぬ遺体に赤子のように縋りつく。
人間の形をしていない異臭を放つだけの物体。
そんな物体を、必死に抱きしめ離さない少佐を奇妙に感じながら眺めていた。
如月ユエが死んだのだ。
そして、それは同時に。
一色冬馬が、死んだ日でもあった。
如月ユエが死んだ後、一色少佐の補佐官だった僕が、彼女の地位に抜擢された。
総統の意向だった。
一色少佐は何も言わなかった。
僕のことなんか見えていなかった。
何もかもが見えていなかった。
もう、死んだ人間だから。