願うは君が幸せなこと

千葉さんがその人のことをあまりよく思っていないことは伝わってきた。
同じ営業だし悔しい気持ちがあるのだろうけど、それだけにしては少し当たりがきつい気がする。

それより、千葉さんの言葉に引っかかった。

「……千葉さん、その人が誰か知ってるんですか?」

「ん?ああ、知ってるよ」

興味が湧いてつい身を乗り出した。
知りたい。伝説の人が誰なのか。
そして、営業についての極意を教えてほしい。

そんな私の気持ちが伝わったのか、千葉さんは少し苛ついたような顔をした。

「あのさ祐希。せっかく二人で食事してるのに、違う男の話に興味持たれると、ね」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「うん。俺もこの話はしたくない。あ、食べよう?料理が冷めちゃうよ」

慌てて謝った私に今度は優しく笑いかけて、千葉さんはワインを口に運んだ。

…失敗した。
今日はせっかくのデートなのに気分を悪くさせてしまった。
この様子では、夏美に言われたことなんて聞けそうにない。噂が本当かどうか確かめるなんて。

だけど、さっき千葉さんが言ったことは事実なのだろうか。
伝説が作り物かもしれないなんて。
そう考えて、だけどこれ以上空気を悪くしたくなくて、今はもう考えないことにした。
目の前の彼と、テーブルの上の料理に集中しよう。

「これ、すっごく美味しいです!」

「でしょ?この店気に入ってるんだ。また二人で来よう」

「もちろんです!」

私にとっても、お気に入りのお店になりそうだ。
お洒落なのに落ち着くような、不思議な空間。

パスタを口に含んで視線を巡らせていると、見覚えのある背中が見えたような気がした。

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