願うは君が幸せなこと
「……何かあった?」
「えっ?」
取り繕った笑顔が消えた。
千葉さんの心配そうな目が、すぐ目の前にある。
「あいつが……、月宮が、何かした?」
無理に笑ったことがバレてしまったのは、元彼だからなのかな、と思った。
三ヶ月だけのお付き合いだったけれど、私が思っている以上にちゃんと向き合えていたのかもしれない。
「そんな、何もされてないですよ。ただ私が……ちょっと舞い上がってただけです」
「……それって」
「あ、創くん戻って来ましたよ!うわあ、落としそう」
危なっかしい持ち方をしている創くんに慌てて駆け寄って、コーヒーを受け取った。
千葉さんが納得いかないという顔をしていることには気付いたけれど、これ以上は話すつもりもない。
ただ、別れてしまった今でも私のことを気にかけてくれたことは、後輩として純粋に嬉しかった。
「ありがとう、創くん」
「いえ!千葉さん、どうぞ」
「ありがとう」
会社への帰り道、創くんは熱心に千葉さんの話を聞いていた。
いつか、創くんが千葉さんくらい優秀になる日が来るのだろう。
私も仕事に集中したほうがいい。
忙しかったら余計なことは考えずに済むし、自分の為にもなる。
そしたらそのうち、忘れるだろう。
二つ並んだ身長差のある背中を追いかけながら、そんなことを思った。