願うは君が幸せなこと
「別にあの二人が仲良くても夏美が怒ることってないよね。……それとももしかして夏美、月宮さんのこと……」
まさかと思って尋ねると、夏美はぎょっとした顔で私を見た。
それから、思いっきり首を左右に振った。
「待って!なんでそうなるの!?」
「だってそれしか原因が……」
「無い!絶対無い!本気で無いから!月宮だけは本っ当にありえないから!」
すごい勢いで否定されて、思わず後ろによろけそうになった。
そんなに嫌がらなくてもいいのにと、逆に面白くなってくる。
夏美ははーっと息を吐きながら額に手を当てて、反対の手をデスクについて体を支えた。
どう説明しようか、迷っているように見える。
「……月宮はね、違うのよ」
「違う?」
「そう、違う。咲野さんじゃないの。……ごめん、これ以上は言えない」
それきり口を閉ざしてしまった夏美を見て、聞いたらいけないことだったんだと気付いた。
こんなに夏美を困らせてしまうってわかってたら、何も聞かなかったのに。
あんなに怒ってた夏美が、今度はなんだか悲しそうで。
一体何がそんな悲しそうな顔をさせているのか気になるけれど聞けなくて、すごくもどかしくなった。
その日、定時になったら夏美はすぐに帰っていった。
月宮さんに用があるのか、ただ早く帰りたかったのかわからずに、お疲れ様とだけ声をかけた。
私はというと、逆に一人になりたくなかった。
家に帰って一人になると色々考えてしまうから。
少しでも会社に残っていたくて、大して急ぎでもない仕事に取り掛かることにした。