願うは君が幸せなこと
「残業?頑張るね」
ポンと肩を叩かれたので振り返ると、ファイルを片手に抱えた千葉さんが立っていた。
「そう言う千葉さんもですか?」
「んー、まあね。帰ってもいいんだけど、瀬名さん一人になっちゃうし」
「え?」
一課を見渡すと、まだそんなに遅い時間ではないのに今日はみんな帰るのが早いのか、外出からの直帰が多いのか、私と千葉さん以外誰も残っていなかった。
気付かないほど、仕事に没頭していたらしい。
「あの、一人でも大丈夫ですよ?いつものことですし」
「そう言うと思った。でも今日はちょっとね、心配だから」
「心配……?」
何が心配なんだろう。
千葉さんの言葉の意味がわからなくて、続きを促すようにじっと目を見つめた。
だけど千葉さんは、教えてあげないよとでも言うような目で私に向かって微笑むばかりだ。
今までこんなことはなかったのに。
創くんと三人で契約を取りに行った時に、久しぶりに千葉さんと二人だけで少し話した。
仕事以外のことを話すのは付き合っていた時以来だったけど、それで完全に私達の間の空気はクリアになったような気がする。
入社仕立ての頃、純粋に千葉さんのことをすごいなと思っていたような気持ちに戻ることが出来たのだ。
だけど、わざわざ私の残業に付き合ってくれるなんておかしい。
一体どうしたんだろう。
「私もそんなに遅くならないように帰りますから」
「うん。いや、そういうことじゃなくてね」
ハッキリしない態度の千葉さんにさらに疑問符を浮かべてしまう。
と、その時、営業一課のドアが開いた。