願うは君が幸せなこと

音に驚いてドアの方を見ると、必死な顔で私を見る人が立っていた。

私の後からドアを覗き込んだ千葉さんは、まるでその人が来ることがわかっていたかのようにニッコリ微笑んで、歩き出した。

「あれ、営業部に何の用かな」

そう言う千葉さんの口調は柔らかく聞こえるものの、どこか威圧感がある。
ドアの方へと一歩一歩近付いていく千葉さんは、相手の視線から私を隠すようにしながら歩いているように感じる。

「……どうして」

とっさに私の口から出た言葉は、千葉さんに向けてのものだったのか、それとも営業一課の入り口に立っている月宮さんに向けてなのか。
自分でもよくわからなかった。

月宮さんは、私を見ている。
私に何か用があるのは明白だった。

「祐希、話がある」

「月宮」

千葉さんが、言葉を遮るようにして月宮さんの肩に手を置いた。
そこでようやく千葉さんと目線を合わせた月宮さんは、邪魔するなと言うように静かに千葉さんを見据えた。

何が起こっているんだろう。
月宮さんは何をしにわざわざここまで来たのか、千葉さんは月宮さんのことを何か怒っているのか、二人の間には火花が散っているように見える。

「月宮、お前も駄目だよ。悲しそうな顔させたからね」

「は?どういう………、」

「帰りなよ」

今まで聞いたことがないくらいの低い声で、千葉さんが短く言った。
普段の千葉さんからは想像出来ない姿だ。

しばらく二人共何も言わずに、そこを動かなかった。
その様子を見守る私も、口を挟める雰囲気ではない。

そして全てを理解したように目を見張ったのは、月宮さんだった。

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