願うは君が幸せなこと

「へえ。……ならなんで傷付けるようなことしたんですか」

「お前に話すつもりは無い、かな」

「邪魔しないでもらえます」

「嫌だね。言っただろ?お前も駄目だ。……もちろん、俺も駄目だけどね」

一体何の話をしているのだろうか。
さっぱりわからなくて、一人取り残された状態だ。
わかるのは、千葉さんも月宮さんも、お互いのことを良く思っていないということ。

だけどさっき月宮さんは、私に話があると言った。
どんな話をされるのか少し怖いけれど、聞いてみたい。

「……はあ。じゃあ、今日のところは先輩に譲りますよ。ただし次は引きません。これで最後です」

「次があるのかは俺は知らないけどね」

「……作りますよ、次を」

そう言うと、月宮さんは最後に私の顔をちらっと見て、一課に入って来ることなく背中を向けてしまった。

帰ってしまうのかと、思わず追いかけそうになった私の腕を、千葉さんに掴まれた。

「千葉さん……」

見上げた千葉さんの顔は、悔しさに歪んでいるように見える。
怒りでもなく悲しみでもなく、ただ悔しそうに眉を寄せて口をひき結んで。

「ごめんね、意地悪して。でもこれで最後にするから」

「え?」

すると今度は千葉さんが、諦めたように笑った。

「あのさ、俺がこんなこと言うなんて最低だって思われるだろうけど」

「はい…?」

「今度は、幸せになって」

息が詰まったように、喉の奥がツンとした。
それはつまり、自分は幸せに出来なかったと言っているんだろうか。
それが悔しいから今、そんな表情をしているんだろうか。

確かに私は、千葉さんに浮気されて少なからず傷付いたし、裏切られた気持ちになった。どうしてそんなことをするのか理解出来なかった。

でも。

「私、千葉さんと付き合ってる時、確かに幸せでしたよ」

「……!」

笑いながらそう言うと、千葉さんは驚いたように目を見開いた。
気を使っているわけじゃない。
これは私の本心だ。

さっきよりも少しだけ穏やかに微笑んだあと、千葉さんは一言だけポツリと呟いた。

「……ありがとう」

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