願うは君が幸せなこと

社内一の会議室に足を踏み入れて、まず目に入ったのは窓からの景色だった。
片側の壁一面が窓ガラスになっていて、オフィス街の様子が一望出来るのだ。

高所恐怖症の人は大変だろうなと思いながら、綺麗に並べられたテーブルを見て回る。
営業部に用意された椅子は三脚で、部長と私、それに現役の中で一番キャリアが長い先輩がそこに座ることになっている。


続々と社員が集まってくる。
みんな自分の部署の札が置かれた席に座り、手元に書類を広げている。

ふと視線を感じて顔を上げると、月宮さんがこちらを見ていた。

「!」

びっくりして声をあげそうになるのを堪え、お互いに何も言わないまま、ただ目を合わせる。

言いたいことがある。話がしたい。

お互いがそう思っているような気がして、ドキドキと胸が鳴った。
近付きたいけど近付けなくて、手を伸ばしたいけど伸ばせない。
そんな風に思っているのが私だけじゃないような気がするのだ。

月宮さんは、隣に座る人に声をかけられて顔を反らしてしまった。
隣の人には見覚えがある。たしか開発部の部長だ。

開発部を代表して会議に参加するのだろうか。
ということは、月宮さんは営業部にいた時だけではなく、開発部にいる今もとても優秀なのだろう。


「そろそろ時間だな」

部長がそう声をかけてきたので、私も前を向く。
いつの間にか空席がなくなった会議室のドアが閉まって、社員達の顔つきがサッと変わっていく。

巨大な窓から見える景色のことなんてすっかり忘れて、ボールペンを握りしめた。


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