願うは君が幸せなこと
会議が終わると、会議室の雰囲気が一気に和らいだ。
「瀬名、先に戻っててくれ。ちょっと挨拶していくから」
部長にそう言われたので、先輩と一緒に営業部に戻ることにして立ち上がる。
会議室を出る寸前、もう一度窓からの景色を見た。
ここに足を踏み入れる機会なんて、もう二度とないかもしれないのだ。
階段に向かっている人達は、すぐ下の階で働いているのだろう。
十八階ぶんの階段を降りる気なんて全くないので、エレベーターを待つことにする。
当然、他にもたくさん待っている社員がいた。
最後に乗り込んだので、必然的に扉の前に立つことになる。
ポーンと音が鳴って、どこかの階で止まった。
七階につくのはまだまだ先だが、降りる人の邪魔にならないように一旦エレベーターを降りる。
その瞬間、誰かに腕を掴まれた。
「えっ!?」
そのまま引っ張られて、もう一度乗り込む予定のエレベーターから遠ざかってしまう。
「おい瀬名!ここ二十階だぞ!」
先輩の焦った声が聞こえた。
一体何事かと、腕を掴んでいる人物を見上げて、息が止まった。
「ちょっと借ります。すぐに返しますから」
私の代わりに先輩に向かってそう言って、どんどん廊下を進んでいく。
「つ、月宮さん……」
「いいから来い」
有無を言わさないような声でそう言われて、口をつぐむ。
後ろを振り返ると、もうエレベーターの扉は閉まっていた。
決して乱暴ではないけど振りほどけないであろう腕に、ドキドキしてしまう。
少し触れているだけでこうなるなんて、自分が思っている以上にきっと、好きなんだろう。