願うは君が幸せなこと
「……あれ?」
入り口付近のテーブルに座っている二人組をじーっと見てみる。
こちらに顔を向けているのが男性で、向かい合うように背中を向けた女性が座っている。
「祐希?どうかした?」
間違いない、あの背中は夏美だ。
グレーのスーツに薄いブルーのシャツ、足を組んで座る後ろ姿、ゆるく巻いてある茶色い髪。
全て、いつも会社で見慣れているものだ。
「……千葉さん、向こうのほうに夏美がいるんですけど」
「え、それって……」
「はい、同じ営業部の福島夏美です」
「……それはまずいな」
千葉さんは少し焦ったような顔で、口元に手を当てた。
会社の人間に関係がバレることを恐れてだろう。
「私、あの子だけには千葉さんとの関係言ってあるんです」
そう告げると、千葉さんは驚いたような顔をした後、眉間にしわを寄せてムッとした表情になった。
誰にも内緒だって言ったのに、と、私のことを咎めているようだった。
「すみません…」
「まあ、もう言ってるんなら仕方ないね」
呆れたようにそう零して、千葉さんは夏美達が座るテーブルのほうをちらっと見た。
「あ、あいつ」
そして、何かに気付いたように身を乗り出した。
「あの男のほう。……へえ、向こうも社内恋愛みたいだね」
「え?」
夏美の向かいに座っている男性を盗み見る。
千葉さんの知り合いであの二人が社内恋愛だということは、男性も同じ会社の人間だということだ。
けれど、俯いているので顔がよく見えない。
それにしても、夏美に同じ会社の彼氏がいるなんて知らなかった。
最近付き合い出したのだろうか。
「どうせ俺達のこと知られてるんだし、ちょっと行ってみようか」
千葉さんはそう言って立ち上がった。
「えっ!?行くって、」
スタスタと歩いていく千葉さんを、慌てて立ち上がって追いかける。
あの男の人にはバレても大丈夫なんだろうか?
千葉さんらしくない行動に少し驚いた。