願うは君が幸せなこと
「やっぱり開発部でも優秀なんだね。さすが伝説の営業マン」
「はあ……。それは言うなって」
迷惑そうに顔を歪ませた月宮さんに笑いそうになった。
まったく表情を隠さない所は、最初に会ったときから全然変わらない。
すると、急に月宮さんの目の色が変わった。
気のせいかもしれないけれど、何かを決心したかのように見える。
何を言われるのかと、少し身構える。
こんな所に連れ出したのだから、他の人に聞かれたくない内容なのだろう。
「……あのさ、もし勘違いされてたら嫌なんだけど」
「勘違い?」
「俺、あいつじゃなくてお前が……」
月宮さんが何かを言いかけたその時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「あ、使用中でしたか?」
入って来たのは若そうな男の子で、誰もいないと思っていたらしく驚いた顔で私達を見た。
途中で言葉を止めた月宮さんは、口を開けたまま少しの間固まったかと思えば、力が抜けたように息を吐き出した。
「……お前………」
「月宮先輩。ちょっと探したい資料があるんですけど……」
「あー……、悪い」
男の子は月宮さんの後輩らしい。ということは開発部の人だろうか。
何を言おうとしたのか気になって、月宮さんを見上げた。
けれど後輩くんの前で言える話ではないらしく、口を閉じてしまった。
「……戻るか」
ちらっと私を見てそう呟いた月宮さんは、なんだか残念そうだ。
話を遮られたのがよほど嫌だったらしい。
そしてそっと顔を近づけてきて、私の耳元でこう言った。
「続きは近々話すから」
「!」
耳に息がかかって、また心臓の音が大きくなってしまう。
声を出したら上ずってしまいそうで、こくこくと頷いた。
先に部屋を出て行く月宮さんの後ろ姿を見ながら、自分の胸に手を当ててみる。
七階に着くまでに収まっていればいいのだけど。