願うは君が幸せなこと
資料室らしき部屋を出てエレベーターに向かう途中に、給湯室がある。
月宮さんはそこに入っていった。
コーヒーを淹れてからデスクに戻るつもりなのだろう。
エレベーターのボタンを押して待っていると、通路に明るい声が響いた。
「あ、いた!部長が戻ってきたのになかなか来ないから、サボってるんじゃないかと思ってたの!」
その明るい声の主は、給湯室へと入って行く。
咲野さんだった。
咲野さんが月宮さんにべったりだというあの噂は、どうやら本当らしい。
途端に、ドキドキとうるさかった私の心臓が、今度は違う音を立て始めた。
ぎゅっと絞られるようにズキズキ痛くなって、すぐにこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
けれどエレベーターはまだ来そうになくて、気持ちばかりが焦ってしまう。
給湯室のドアは開けっぱなしで、二人の会話が聞こえてくる。
聞きたいような聞きたくないような奇妙な気持ちで、ただ立ち尽くすことしか出来ない。
「ねえ、いい加減オッケーしてくれない?」
「またその話かよ……」
「月宮くんがなかなか踏み切ってくれないからでしょう?」
私とは違う、色っぽくて艶のある声。
咲野さんは今も、月宮さんのどこかに触れているのだろうか。
「好きだから本社まで追いかけてきたの。ここまで来て諦めるなんて無理よ」
「!」
聞こえてきた話し声に、思わず息を飲んだ。
血の気がすうっと引いていくような感覚がして、足元が重くなる。
今、何て言った?