願うは君が幸せなこと
「何かの間違いだと思うけど……」
そう呟いた夏美の顔をまじまじと見てしまった。どうしてそんなことが言えるのか、不思議に思ったから。
私は確かに聞いたのだ。月宮さんと咲野さんの会話を。
「月宮さん、咲野さんと付き合うみたい。間違いないよ」
「……そんな」
夏美はとても困惑しているようで、顔を上げたり下げたりしている。
そんなに予想外のことだったのだろうか。
私は平然を装ってサンドイッチにかぶりつく。
涙は昨日の夜に流した。それきりで充分だ。
夏美はようやくカフェオレを一口飲んだ。
だけどサンドイッチの包み紙を開けようとして、そこでまた手を止めてしまった。
「……ねえ」
ハッとした顔で私を見る夏美が、また声をかけてきた。
「なに?」
「いつの間に月宮のこと好きだったの?」
「……私も気付いたのは最近なの」
まさか好きになるなんて、思いもしなかった。
夏美は心底驚いているみたいだ。私だって自分の気持ちに驚いた。
「夏美のおかげだよ」
気が付けば、そんなことを言っていた。
言うつもりはなかったのに口から溢れてしまった、という感じだ。
「私の?」
「夏美がいなかったら、夏美と月宮さんが知り合いじゃなかったら、好きになることなんてなかったから」
結果は、告白もせずに終わってしまったけれど、確かに恋をした。それは変えようのない事実。