願うは君が幸せなこと
伝説だとか、ずっと憧れていた人だったとか、そんなことは関係ない。
例えばもし、伝説の人が月宮さん以外の人だったとして、私はその人のことを好きにはならなかっただろう。
そして、伝説の人じゃない月宮さんのことを好きになっただろう。
つまり私は、月宮湊という人間そのものを好きになったのだ。
鼻の奥がツーンとしてきた。
ごまかすようにカフェオレに手を伸ばして、気持ちを落ち着かせようとする。
「……祐希はそれでいいの?」
「え?」
顔を上げると、夏美は私よりもっと泣きそうな顔をしていた。
もしかして、自分が引き合わせたせいで私が失恋したとでも思っているのだろうか。
そしてそれに、少なからず責任を感じているのだろうか。
だとしたら、人がいいにも程がある。
「告白しないで、諦めちゃうの?」
そう言われて、ふと思った。
この気持ちに蓋をしなければと思ったものの、簡単に諦められるだろうか。忘れられるだろうか。
いい方法があるとして、それをどのくらいの時間で見つけられるだろうか。
……どれだけ時間が、かかるのだろう。
「……無理だよ。あの二人の間に割り込んでいくなんて、自分が惨めになるだけだから」
これが正直な気持ち。
言いながら、小さく笑いが溢れた。
諦められるかとか、忘れられるかとか、考えたって無駄だ。
諦める以外に道はないから。
そんな私を、夏美は悲しそうな目で見ていた。
そのことに胸が痛んだけれど、何も言えなかった。
”大丈夫だよ”と安心させる言葉はまだ当分、言えそうにない。