願うは君が幸せなこと

———

「あれ、もしかして元気ないですか?」

二人で営業先へ行った帰り道、創くんがそう言った。
もう日が沈みかけて、空はオレンジ色になっている。

今日は新商品の告知のため、大口のクライアントだったので一応ポーズとして私もついて行ったのだ。

前回同行した時はほとんど千葉さんが話していたから気付かなかったけれど、今日のプレゼンを聞いて創くんの成長ぶりに驚いた。
細かい言い回しなんかももちろん、一番は堂々とした立ち振る舞いだったこと。
人はこんなに短期間で変われるんだと、感心してしまった。

「え、そんなことないよ?」

冷静に言葉を返しながら、内心はドキッとしていた。
そんなに分かりやすく態度に出ているのか。

「ならいいんですけど。もしなにかあれば僕にも相談してください」

「創くん……」

「僕、瀬名さんには随分お世話になってるんで。だから今度は僕が瀬名さんの役に立ちたいってずっと思ってて」

創くんは照れくさそうな顔で、首の後ろに手を当てている。
お世話になってるだなんて、私の方こそ創くんにたくさんパワーをもらっているのに。

「ありがとう。じゃあもし何かあったら、その時は頼りにしちゃおっかな」

ふふっと笑いながらそう言うと、創くんの頰が赤くなった。
あ、と思ったものの、すぐに顔をそらされてしまう。

失恋した、なんて、創くんに相談出来るはずもない。
仕事関係で誰かに相談したくなった時は、約束通り頼りにさせてもらおう、と心の中で決めた。


会社の近くまで帰ってきて、ふと気が付いて創くんに話しかけた。

「そういえば、直帰でもいいって言われてたのに戻ってきてよかったの?」

「はい、戻ってちょっとだけ仕事しようかなって思ってて。……そういう瀬名さんこそ、会社に戻るんですか?」

「どうしよっかなあ。とりあえず帰る方向だから戻ってきたんだけど」

すると、何かを思いついたように創くんがパチンと手を叩いた。

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