願うは君が幸せなこと
「こんばんは」
千葉さんは、にっこりと笑みを浮かべて二人に向かってそう言った。
声のしたほうを見た夏美が、驚いたように目を見開く。
「え、千葉さん……?」
私は千葉さんの後ろからひょっこり顔を覗かせて、夏美に向かってひらひらと手を振ってみせた。
「祐希!あ、もしかしてこの店でデート中?」
「あはは……」
納得した様子の夏美に向かって曖昧に笑ってみせた。
まさか夏美がこの店を知ってるとは。それに、同じようにデート中だなんてこっちも驚きだ。
「久しぶりだね、月宮」
「……どうも」
千葉さんが、夏美の向かいに座っている男性に話しかけた。
男性は、特に驚く様子もなく小さく頭を下げた。どうやら千葉さんよりも年下らしい。
夏美の彼氏なら、私も挨拶しておきたい。同じ会社の人なら尚更だ。
思い切って話しかけようと、月宮という人の顔を真正面から見た瞬間、私はその場で凍りついた。
「………」
「………」
相手も、私の顔をじっと見てくる。
「祐希に紹介しとくね。この人は月宮湊(つきみや みなと)。私達と同じ会社で、開発部のシステムエンジニア。……って、二人ともどうかした?」
不思議そうにしている夏美に、どうしてこの人と付き合ってるのか問いただしたくなった。
月宮湊というこの男は、今日の朝、エレベーターの中で私を嫌な気分にさせた、あの男だったのだ。