願うは君が幸せなこと

足を止める気配のない背中を見つめる。
どういうつもりでこんなこと。
月宮さんが何を考えているのか、全然わからない。

掴まえるべきなのは咲野さんじゃないの?
私じゃないよ。間違ってるよ。
そう思うけれど、掴まれたこの手首を離して欲しくないなんて、私は最低だ。

少し前だったら、こんな風に突然さらわれたら多分、期待してしまっただろう。
わざわざ会社の前で私のことを待っていてくれたのだろうかと、きっとドキドキしたことだろう。
だけど今は違う。
期待してはいけない。喜んではいけないんだと言い聞かせる。

悔しくなって、きゅっと唇を噛んだ。
彼女がいるなら、こんなことしないでよ。

「っ……、離して!」

ぶんっと腕を上げて、月宮さんの手を振り払った。
思ったよりいとも簡単に離された手に、またズキっと胸が痛んだ。
やっぱりその程度なのだ、所詮は。

「どういうつもり?約束なんてしてないのに」

つい、口調が強くなってしまう。
わかってる。月宮さんは何も悪くない。
私が勝手に舞い上がってて、勝手に傷付いただけ。この失恋を月宮さんのせいにするのは、筋違いだ。

「この前、邪魔が入ったから」

「この前?」

「続きは近々話すって言っただろ?」

そう言われて、思い出した。
合同会議があった日、今みたいに月宮さんに手を引かれて、資料室のような所で話をした。それが途中になっていたのだ。

だけど今更何を聞いたって、どうにもならない。
そう思った瞬間、ハッとした。
もしかしたらあの時月宮さんは、咲野さんと付き合うかもしれないことを言おうとしたのだろうか。
その後に私がこっそり二人の会話を聞いてしまったことは知らない筈だから、今からその報告でもされるのだろうか。


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