願うは君が幸せなこと

月宮さんはキョロキョロと辺りを見回した。
さすがに会社近くの道端でする話じゃないと思ったのか、ビルとビルの間の細い路地へと手招きをされた。

「この前言おうとしてたこと。……もし、勘違いされてたら嫌だからはっきり言うけど、」

そう話し始めた月宮さんは、普段からは考えられないような顔をしていた。
少し恥ずかしそうな、照れたような表情で頭をかいたり、目を泳がせたり。
その顔を見て、自分の予想が外れていないんだと確信を持った。

それから、月宮さんが今から言おうとしている言葉が何なのか、頭の中で予測してしまった。

”勘違いされてたら嫌だからはっきり言うけど、俺、お前のこと別に好きじゃないから。咲野と付き合うことになったから”

きっと、こう言われる———。

「俺、お前のこと、」

「待って!」

自分が思っていたより大きい声が出た。
決定的なことを言おうとする月宮さんを、必死で止めた。
口に出さなかったからって、なかったことにはならない。それはわかっているけれど、今直接言われるのはあまりにも辛すぎる。

月宮さんはびっくりして、戸惑っているようだった。

「わかってる、わかってるから」

「……は?」

「大丈夫。勘違いなんてしてない」

そう言って、ぱっと顔を上げた。
気にしないで、とでもいうように笑ってみせる。ギリギリの笑顔だ。

「え……、わかってるって、そうなのか?」

「うん」

だから早く、解放して。
きっとあと数分しかもたないから。

「じゃあお前、俺の気持ち知ってるのか?」

遠慮をしらないこの人は、こんな時にも遠慮なく私を突き刺してくる。
血が出そうだ。

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