願うは君が幸せなこと
「……知ってるよ」
笑顔を崩さないように気をつけながらそう言うと、月宮さんは目を見開いて固まった。
と思ったら、次は力が抜けたように頭を下に向けて、顔を手のひらで覆った。
「……まじかよ………」
髪の毛の間から少しだけのぞいている耳が、赤く染まっているように見える。
いつも堂々としている立ち姿は、今はなんだか頼りなさそうだ。
ああ、私も末期だ。
その一つ一つを、愛しいと思ってしまうなんて。
自分に呆れる。余計に惨めになる。
対照的に月宮さんは、情けない声を出しているわりにとても嬉しそうに見える。
「気付かれてると思わなかった、かっこわり……。でも、勘違いせずにいてくれたのはちょっと嬉しい」
顔を覆っていた手を離した月宮さんは、私の顔を見ながら、目を細めて笑った。
幸せそうに笑った。いつもより幼く見える、初めて見る顔で。
胸が痛い。
まだ完全に出来上がってない蓋で必死に気持ちを抑え込む。
ここで私が悲しんだらおかしい。
祝福してあげないと。
「……あのさ、お前は俺と、……同じ気持ちなのか?」
だけどその一言で、張り詰めた糸がぷつんと切れた。
無理だ。祝福するなんてそんなこと出来ない。
笑顔が崩れてしまう。なんとか蓋をした気持ちが、入れ物ごと壊れる。
同じ気持ち?冗談じゃない。
私はそんなにお人好しじゃないし、物分かりがいい女でもない。
手のひらに爪が食い込むのも気にせず、ぎゅっと手に力を入れた。