願うは君が幸せなこと
家について、靴を脱いでふらふらと廊下を進み、テーブルの前まで来てしゃがみ込んだ。
同時に鞄がドサっと音を立てて落ちてしまう。
そっと唇に手を当てて目を閉じてみる。
まだ微かに残っている感触は、月宮さんのもの。
どういうつもりであんなことをしたのか、私には月宮さんの考えは全然わからない。
でも、何とも思ってない人にキスなんて、私ならしない。
たとえ仕事の相談したり、食事に行ったりする仲でも、だ。
好きじゃないとしない。
だけど、月宮さんには私じゃなくて、他の人がいる。
じゃあやっぱり同情のキス?これで最後だからもう諦めてくれのキス?
———諦めたくない。
はっきりと心の中でそう思った。
やっぱり、このまま気持ちに蓋なんて出来ない。出来そうにない。
どうせ蓋をしたって壊れてしまうのなら、最初からしなくてもいい。同じことだ。
どちらにしても、溢れ出すだけだ。
それなら、叶わなくてもいいから、後悔しないように自分の気持ちに素直になりたい。
諦めたくない。
閉じていた目をゆっくり開けて、前を向いた。
私にこう思わせたのは、他でもない月宮さんだ。
あのキスがなければ。いや、さっきあそこで会わなければ、きっと私は諦めて、もう何もしなかったと思う。
悔しい。
だって、何もかもあの人のせい。
嬉しくなるのも、涙が出るのも、前を向けるのも、全部あの人がいるから。
「………よし」
立ち上がって、自分の顔をパンっと叩いてみる。
とりあえず、顔を洗うところから始めることにした。