願うは君が幸せなこと

どうしてこんな所にいるのだろう。
いや、ここは社員なら誰が来たっておかしくない場所なのだが、どうしてこんな所でばったり会ってしまうのだろう。
千葉さんと何か話していたのかもしれない。

「えっと……」

創くんがキョロキョロと色んな棚を見ている。
咲野さんと話したいことはあるけれど、今は仕事中だ。

「創くん、こっち」

「あ、はい!」

千葉さんと咲野さんから離れて奥の棚へと移動する。二人の姿が見えない位置に来てから、ほっと息を吐き出した。
気付かないうちに随分緊張していたらしい。


そして無事に資料を見つけ出し、資料室を出ようとした時に、見てしまった。

「千葉さん、良かったら今度ご飯行きませんか?」

そう言った咲野さんが、千葉さんの腕に手を触れていたのだ。
違う部署で、普段ほとんど関わりがない先輩に、いきなりそんなことするだろうか?

千葉さんは女性にこういう態度を取られることに慣れているのか、優しく手を持ち上げて腕を離させる。

「ごめんね、俺最近失恋したばっかりで、とてもそんな気分になれないんだ」

そう言った千葉さんが、ほんの一瞬こっちを見た。目が合ったような気がして、首を傾げる。
失恋?千葉さんが?信じられない。

「えー……残念」

そう言った咲野さんが、本気で残念がっているように見えて、耳と目を疑った。
一体この人はどういうつもりなのか。
月宮さんとはどうなっているのだろう。

隣で創くんが気まずそうな顔をしている。
聞いてはいけないことを聞いてしまった、という顔だ。

「じゃあ俺は営業部に戻るから。創と瀬名さんももう戻る?」

「は、はい!戻ります!」

創くんと二人、千葉さんの後ろについて行くことにする。
が、出来なかった。

「……ちょっと待って、瀬名さん」

何故か私だけ、咲野さんに呼び止められてしまったから。

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