願うは君が幸せなこと

「私ね、さっきの……千葉さんのことが好きなの」

「………………え?」

「だから、もっと千葉さんと話すきっかけが欲しいんだけど、部署が離れてるとなかなか難しくって」

「………………ん?」

「千葉さんが好きなタイプとか、服装とか、食べ物とか教えてくれないかな……?」

恥ずかしそうに私を見る咲野さんを、唖然と見つめる。
ちょっと、頭がついていかない。
そんな私に構わず、咲野さんは乙女の顔で話を続ける。

「さっきも上手くかわされちゃったし、私もしかして嫌われてるのかも……」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って?」

こんがらがりそうだ。
思わず額に手を当てて目を閉じた。
聞き間違い?だとしたら早急に耳鼻科へ行かなくては。

「えっと、ごめん……誰が誰を好きって?」

ゆっくりとそう尋ねると、咲野さんはキョトンとして数回瞬きをした。

「私が、千葉さんを好きなの」

やはり聞き間違いじゃなかったらしい。

一点の曇りもない咲野さんの目を見る限り、嘘をついているようには見えない。
もし嘘だとしたら相当演技派だ。

ここで私の脳内には二つの考えが浮かんだ。
一つは、咲野さんが浮気をしているパターン。そしてもう一つは。

「あの、確認してもいい?」

「なにを?」

「咲野さんって、月宮さんと付き合ってるんじゃないのかなー、なんて……」

震えそうになる手をぎゅっと握り合わせる。
口からは渇いた笑いが漏れて、何を言われてもいいように身構える。

咲野さんは、何かを考えるように口元に手を当てて、それから納得したようにポンと手を叩いた。

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