願うは君が幸せなこと
仕事に戻り、いつものように働く。
…いつものようにって、どんな感じだっただろうか。
「瀬名、これ次の会議で使うから」
「あ、はい!」
課長に渡された資料をコピーしようとコピー機の前に立った時、あの日見た、月宮さんの深く傷付いた表情を思い出した。
悔しそうに歪められた顔が頭から離れない。
スタートボタンを押してコピーを始める。
ガーガーとうるさい機械の音も、今はまったく耳に入ってこない。
”もし勘違いされてたら嫌だからはっきり言うけど、俺、お前のこと———”
あの、続きは。
月宮さんと咲野さんは付き合っていなかった。
なら、そのあとに続く言葉は一体何だったのだろう。
”わかってるから。勘違いなんてしてない”
違った。
私は全然わかっていなかった。勘違いだらけだった。
”じゃあお前、俺の気持ち知ってるのか?”
月宮さんの気持ちって?
あの時、私に何を言おうとして、わざわざ会社の前で待っていてくれた?
そしてその後月宮さんは、嬉しいと言って幸せそうに笑った。
目を細めて、とても幸せそうに。
その笑顔が私に向けられたものじゃないんだと思って、とても悲しくなったのを覚えている。
あなたが好きなの。
私のことを見てほしいの。
そんな言葉が頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。だけど懸命に閉じ込めて、間違っても口から出てこないように蓋をした。
そうしなければいけなかった。
資料が次々とコピーされている様子をぼーっと眺める。
今、何枚目だろうか。