願うは君が幸せなこと


仕事に戻り、いつものように働く。
…いつものようにって、どんな感じだっただろうか。

「瀬名、これ次の会議で使うから」

「あ、はい!」

課長に渡された資料をコピーしようとコピー機の前に立った時、あの日見た、月宮さんの深く傷付いた表情を思い出した。
悔しそうに歪められた顔が頭から離れない。

スタートボタンを押してコピーを始める。
ガーガーとうるさい機械の音も、今はまったく耳に入ってこない。

”もし勘違いされてたら嫌だからはっきり言うけど、俺、お前のこと———”

あの、続きは。
月宮さんと咲野さんは付き合っていなかった。
なら、そのあとに続く言葉は一体何だったのだろう。

”わかってるから。勘違いなんてしてない”

違った。
私は全然わかっていなかった。勘違いだらけだった。

”じゃあお前、俺の気持ち知ってるのか?”

月宮さんの気持ちって?
あの時、私に何を言おうとして、わざわざ会社の前で待っていてくれた?

そしてその後月宮さんは、嬉しいと言って幸せそうに笑った。
目を細めて、とても幸せそうに。
その笑顔が私に向けられたものじゃないんだと思って、とても悲しくなったのを覚えている。

あなたが好きなの。
私のことを見てほしいの。

そんな言葉が頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。だけど懸命に閉じ込めて、間違っても口から出てこないように蓋をした。
そうしなければいけなかった。



資料が次々とコピーされている様子をぼーっと眺める。
今、何枚目だろうか。

< 135 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop