願うは君が幸せなこと
”ずっとお前のこと見てたんだ。いつもお前を探してた”
月宮さんはそう言った。
初めて喋った日、エレベーターで暴言を吐かれた時よりも前から、私のことを見ていたのだと。
だから私が七階で働いていることを知っていたのかもしれない。
そっと、唇に手を当ててみる。
悲しいキスだった。
もう終わりにすると言った月宮さんの苦しそうな声と表情が、触れた唇の熱とあまりにも正反対だった。
終わりにするなんて言わないで。
それならどうして最後にキスしたの。
こんなに切ない終わり方で、終わらせないで。
教えてほしい。
あのキスの本当の意味を。
いつの間にか印刷を終えたコピー機は、すっかり静かになって私に書類を差し出していた。
「おい瀬名、お前今日誕生日だったか?」
先輩にそう聞かれて、何のことかと疑問符が浮かんだ。
「違いますけど……?」
「だよなあ?なんか机の上賑やかになってんぞ」
「机の上?」
資料をコピー機から取って自分の席へと戻ってみる。
見てみると、確かに賑やかになっていた。
デスクの上に、チョコレートがいくつかと、ミルクティーの缶と、付箋のついたクッキーが置いてあったのだ。
何事かと首を傾げる。
もちろん自分で置いたわけではない。
どうしたものかと思い、ふと気付く。
クッキーについた付箋は、前に夏美が私のパソコンに貼り付けたものと同じだ。
付箋には、”ファイト!”と書かれている。
つまりこのクッキーは夏美からの差し入れということになる。
そういえば、私がミルクティーを好きだと知っていたのは創くんだし、このチョコレートは千葉さんと付き合っている時にもらったことがある。
慌てて営業一課を見渡してみる。
夏美は私と目が合うと、にやっと笑いかけてきた。
創くんは不自然に視線を泳がせて、私の視線に気付かないふりをしているらしい。
千葉さんは真剣にパソコンと向き合っているものの、その手にはチョコレートが握られていた。
「……ありがとう」
誰に聞かせるでもなく、ポツリと呟く。
ついつい口元が緩んでいくのを抑えることが出来なかった。