願うは君が幸せなこと


ヒールの高い靴なんて履いてくるんじゃなかった。

仕事を定時で終えて部署を飛び出した私は、そんなことを考えていた。
だけど仕方がない。世の中の女性の大半は、気合いの入り方とヒールの高さが比例している……と勝手に思っているのだから。

こんな時に限ってエレベーターは二台とも十五階あたりに止まっている。
力強くボタンを押すと、そのうちの一台が降りてきてくれる。もう一台は、上で誰かが呼んだらしく上昇していった。

慌てるあまり、鞄も上着も置いてきてしまった。あるのはこの身一つだ。
でもそれで充分。

七階に着いたエレベーターに乗り、他に誰も乗り込んでこないのを確認してドアを閉めた。
ランプが点いている階数ボタンは、二十階のみ。

途中でどこかの階に止まった。
乗ってきた人は知らない人なので、お互いに軽く会釈を交わす。

階数が表示されているパネルをじっと見つめて、その数字が二十になるのを待つ。
しかし、十八階でまたエレベーターが止まった。
気持ちばかりが焦っている私は、とてももどかしい気持ちになってしまう。

ドアが開いた先に誰も立っていないので閉まるボタンを押そうと思ったら、途中で乗ってきた人が降りていった。
危うくドアに挟んでしまうところだった。

再び私一人になった空間で、胸に手を当てて深呼吸をした。
もう迷わないと決めたのだ。後悔しないように。諦めないと決めたから。


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