願うは君が幸せなこと
ようやく二十階について、エレベーターを飛び出した。
月宮さんのデスクの位置はわかっている。前に一度尋ねたことがあるから。
あの時はまだ、月宮さんのことを好きになるなんて思っていなかったなと、少し懐かしい気持ちになる。
「失礼、します……」
残業している人がいるので、なるべく音を立てないように開発部の扉を開けた。
社員それぞれがパソコンとにらめっこをしていて、誰も私のことなんて気に留めていないようだった。
ぐるっと見回して、極限まで緊張していた心ががくっと一気に緩むのを感じた。
月宮さんがいない。
もしかしてもう帰ってしまったのだろうか。
開発部の人達はよく残業しているイメージがあるので油断していた。
いざ話すとなるとガチガチになってしまうくせに、いないとなるとそれはそれで困る。
今日、今すぐに、話がしたいのに。
思い切って、近くの席に座っている男性に聞いてみることにした。
「あの、すみません」
「はい?」
「月宮さんは、もう帰宅されたんでしょうか」
「月宮?月宮湊?」
男性は月宮さんのデスクを見て、いないことを確認すると頷いた。
「今日は珍しくもう帰ったみたいだね。……あ、でもまだ鞄あるなあ」
「ほ、本当ですか」
「ああ。デスクの上も散らかったままだし、まだ会社にはいるみたい。そのうち帰ってくると思うけど?」
ここで待っておこうかと考えて、だけど首を左右に振ってお断りした。
「ちょっと探してみます。ありがとうございました」
「え、探すって、このビルの中を一人で?」
男性の戸惑った声を背中に受けながら、今度は階段へと向かった。