願うは君が幸せなこと
一瞬、息の仕方を忘れてしまったかのように呼吸が止まった。
エレベーターから降りてきたのは、会いたくて堪らない人だった。
真っ直ぐに私の目を見つめて近付いてくるその人に、心臓がドキドキとうるさくなる。
月宮さんだ。
額に汗が光っているのは、走り回ったせいだろうか。
「お前……営業部にいないし五階の休憩所にもいないし、でも福島に聞いたら荷物は置きっ放しだって言うし。じっとしとけよ……」
「そ、それはこっちの台詞よ。そっちこそ開発部にも休憩所にもいないし、でもまだ帰ってないし!……って、あれ?」
もしかして、月宮さんも私を探していたのだろうか?
だとしたら、七階と二十階からエレベーターですれ違っていたかもしれない。
月宮さんもたった今、私と同じことを考えているらしい。驚いた顔の後、照れたようにふいっとそっぽを向いた。
「……どうして」
「俺は、お前とどうしてももう一回話がしたかったから」
信じられなかった。
私の勘違いで月宮さんを傷付けてしまって、もう終わりにすると言われ、口を聞いてもらえないかもしれないとさえ思っていた。
どうしても、もう一回。
私と同じことを考えていてくれて、嬉しくなる。
「ねえ、先に私の話聞いてくれない?」
「え……」
「どうしても最初に言いたい」
そう言うと月宮さんは迷ったように視線を彷徨わせた。
俺が先に言いたいけど譲るかどうしようか、とでも考えているのだろう。
「……来い」
月宮さんが近くの会議室のドアを開けた。
電気をつけて、二人でそこに入る。誰にも聞かれたくない会話なので素直に有り難かった。
向かい合って立ち、月宮さんの目をしっかり見た。そして、私は頭を下げた。
「……ごめんなさい!」