願うは君が幸せなこと
「俺の想像なんだけど」
月宮さんが、持っていたジョッキを机に置いて話し始めた。
「千葉さん、ちゃんと本気で祐希のこと好きだったんだと思う」
「え、まさか。私は遊ばれてたんだよ」
「いや、そんなことない。多分別れたこと後悔してんじゃねえ?」
そんなことを言われて、戸惑ってしまう。
そういえば、千葉さんと別れ話をしたときに、最後に質問したんだった。私のことを好きでしたか、と。
結局くすっと笑われただけで、ちゃんとした答えは聞いていない。
「でも、もしそうならどうして浮気したの?」
「さあ……。俺は千葉さんじゃないからわからないけどな」
今度は夏美と顔を見合わせて、二人して首を傾げた。
千葉さんがどういうつもりだったのか、今となっては何もわからない。
すると夏美が、ニヤニヤ笑いながら頬杖をついた。
「月宮いいの?そんなこと言って。祐希がやっぱり千葉さんがいいってなったらどうするつもり?」
「ちょ、ちょっと夏美」
「もしそうなっても、もう一回奪い返すだけだから」
表情一つ変えずにそう言ってのけた月宮さん。
不意打ちでの甘い言葉に、体が熱くなってくる。
夏美は冷やかすような声を出して、私の脇腹を肘でつついてきた。
「あー暑い暑い。それじゃ、邪魔者はそろそろ退散しようかな」
「え、夏美帰るの?」
鞄を持って立ち上がろうとする夏美を慌てて止める。邪魔だなんて思ってないのに。
「月宮、大事にしてよ」
「ああ、約束する」
夏美の問いかけに、月宮さんが当然だというように答える。
二人のやり取りを横で眺めながら、この二人と知り合えてよかったなとしみじみ思った。