願うは君が幸せなこと
結局三人一緒に居酒屋を出て、帰ることにした。
方向が逆の夏美を見送って、家まで送ってくれるという月宮さんの申し出を有り難く受ける。
送ってほしい訳じゃない。ただもう少し一緒にいたいから。
「楽しかったね」
「あいつもお節介だな。心配しなくてもちゃんと大事にするって」
「ん?」
きょとんと月宮さんを見上げると、ふっと笑って頭をポンポン撫でられた。
なんだか照れくさくて、頰が緩んでしまう。
「あー………くそ、やめろ」
「わっ」
急に、肩を抱かれて引き寄せられた。
ぐっと近付いた距離に心臓がドキドキと音を立て始める。月宮さんに聞こえないことを祈った。
夜のオフィス街。
街行く人々はほとんどが仕事帰り。
家族が待つ家に帰る人もいれば、今から友達と会うために待ち合わせをしている人もいるだろう。
そして、私達のように恋人と並んで歩く人達は、これからどこに向かうのだろう。
「なあ」
「な、なに……?」
「俺の家、ここから近いんだけど」
「……えっ……」
耳元で聞こえる月宮さんの声に、くらくらする。
「まだ、帰したくない」
二人して、足を止めた。
まるで世界が止まってしまったかのように、もう月宮さんしか目に映らなくなる。
返事をするように、月宮さんの目を見つめた。