願うは君が幸せなこと

———


「おじゃましまーす……」

「どうぞ」

月宮さんの家は、一人暮らしの割には広々としたマンションの一室だった。
促されるままに部屋に足を踏み入れる。

ここが、月宮さんが生活している場所。
意識し始めたらもうどうしようもなくて、そわそわと落ち着かない。

月宮さんらしい、無駄がない部屋だった。
黒っぽい家具で統一されている、男の人らしい部屋。

「綺麗にしてあるね」

「あ?あーまあ、物が少ないだけだろ」

月宮さんは荷物を置いて、キッチンへと向かう。

「適当に座ってろよ。コーヒーでいいか?」

「あ、うん!ありがとう」

黒い革張りのソファーに座ってみる。
気持ちを落ち着かせようと、深く息をはいた。

気を紛らわせようとしても、部屋を取り巻く月宮さんの香りや、彼が好きそうな難しそうな本を見ていると、私が今いるのは彼氏の家なのだと突き付けられる。

緊張して変な態度を取ってしまわないか、自分で自分が心配になった。

「ほら」

「ありがとう、いただきます」

なんとか笑顔でカップを受け取って、そっと口をつけてみる。
そんな私の様子を見て、月宮さんがふっと笑った。

「お前、緊張しすぎ。別に気なんか使わなくていいから」

「う、だって」

「俺らが話すようになった頃思い出してみろよ。お互いに遠慮なく物言ってたし、色んな姿見てきたんだから。今更隠すところなんてないだろうが」

そうだ。
月宮さんに対しては自分を偽る必要がないから、とても楽だったんだ。
泣いてるところも怒ってるところも、もう見られた。
彼氏と彼女になって前より近い立ち位置にいるのに、今になって遠慮するほうがおかしい。

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