願うは君が幸せなこと
誰に言う訳でもない感情にもやもやしていると、再び店の入り口が開いて千葉さんが戻ってきた。
「ごめんね、部長からだったんだ」
「何か大事な話ですか?」
「うん……」
千葉さんにしては珍しく、歯切れの悪い返事だ。
どうかしたのかと思い、少し困ったような表情の千葉さんを見つめる。どうやらその視線は店の奥、もともと私達が座っていたテーブルへと向けられているようだった。
もしかして、まだ残っているテーブルの上の料理を気にしているのだろうか。
なんとなくそう察して、恐る恐る切り出した。
「あの、急ぎの用が出来たなら、私のことは気にしないでください」
「え…」
「会社に戻らないといけないんじゃないですか?もしそうなら、料理は私が有難く頂きます。デートはまた今度やり直せますし、大事な用事を優先してください」
「祐希……」
千葉さんを安心させるように笑顔を作って見せる。
残念だけど、仕方ない。
千葉さんはとても優秀な人で、上司から信頼されて後輩からも慕われる。
それは、千葉さんの仕事への熱意があるから。一生懸命、誠実に仕事へ向き合う千葉さんの姿勢が、そうさせるのだ。
だったら、私は千葉さんにそれを貫いて欲しい。だから聞き分けのいい彼女でいたい。
私は、そんな千葉さんのことを好きになったのだから。
「なんだか、申し訳ないな。今日はせっかくのデートだったのに」
「いえ、私のことは気にしないでください」
「祐希は本当によく出来た彼女だよ。今度絶対に埋め合わせするから、行きたい場所考えておいてよ」
「ふふっ、楽しみにしてます」
千葉さんはありがとうと呟いて、奥のテーブルに置いていた鞄を手に取った。
その時、夏美が急に声をあげた。