願うは君が幸せなこと
「あ!そういえば私も、会社に仕事残して来たんだった!千葉さん、どうせなら一緒に行きません?」
「え、夏美?」
夏美の言葉に驚いて、思わず口を挟んだ。
仕事を残して晩ご飯を食べに行くだなんて、夏美がする訳がないと思ったからだ。
千葉さんも驚いたように目を見開いて、まじまじと夏美を見つめ返している。
月宮さんは、我関せずといった顔で頬杖をついている。
「実は私達、もう帰ろうとしてたところなんですよ。ね、月宮」
「……まあ」
「そうなんだ。それなら一緒に行こうか、福島さん?」
「行きましょ行きましょ!あ、月宮!あんた暇でしょ?祐希と一緒に居てよ。一人で店に残させる訳にいかないし」
夏美の提案にぎょっとして、月宮さんのほうを見た。すると、向こうも同じように怪訝な顔で私を見ていた。
この人と一緒に過ごすくらいなら、一人寂しく料理を食べていたほうがマシだ。
今日初めて会った人に対して失礼だとはわかっているけれど、そう思わずにはいられなかった。
「い、いいよ!一人で大丈夫だから」
「駄目。いい?月宮。祐希を置いて帰ったら承知しないからね!」
「………チッ」
舌打ちするくらいなら嫌だって言い張ったらいいのに。
こっちだって舌打ちしたい気分だ。
「……じゃあ祐希、これ置いておくから。追加でドリンクでも頼んで、ゆっくりしていって」
千葉さんはそう言って、一万円札を二枚テーブルの上に乗せた。
千葉さんはいつも、食事代を出してくれる。いくら申し訳ないと言っても奢ってくれるので、もう有難く頂くことにしている。
「ありがとう、ございます」
「月宮、お前も何か頼めよ」
「……っす」
そっけない態度に慣れているのか、千葉さんはそんな月宮さんに向けて口角を上げた。
「じゃあまた明日仕事でね、祐希」
「う、うん。お疲れ様」
並ぶようにして、二人が店を出て行った。