願うは君が幸せなこと
残された私達は、とりあえず奥のテーブルの方に向かい合って座ってみた。
けれど案の定、会話は生まれない。
月宮さんはドリンクを頼んでゆっくりと飲み始めた。
その気配を目の前に感じながら、お皿に残った料理を平らげていく。
早く食べ終えて帰ったほうが良さそうだ。そのほうが月宮さんだって早く解放されて喜ぶだろう。
そう思ってチラッと顔を上げると、月宮さんは私を見ていたようで、目が合ってしまった。
「……なんですか」
「別に」
じゃあ見ないでよ!と言いたいのをなんとか堪えて、再び料理へと視線を落とす。
「帰りたかったら帰ってもいいですよ。一人で平気なので」
素っ気なくそう言うと、月宮さんは気だるそうに足を組んだ。
それから、コトッとグラスをテーブルに置いてこう言った。
「可愛くねー女」
「なっ……、」
「千葉さんの前で相当猫被ってんのな。疲れねえ?」
この人、私を苛つかせる才能が素晴らしい。もしかして喧嘩を売られているのだろうか?
「さっきのも、何アレ。私のことは気にしないでくださいーとか。そんなこと全然思ってねえくせに無理して、見てるこっちがイライラするんだけど」
咄嗟に、言い返す言葉が出てこなかった。その通りだから。
だけどどうして、私のことをよく知りもしないこの人に言い当てられないといけないのか。
本当は誰より千葉さんに気付いて欲しいことを、こんな人に言われるなんて。
腹が立って仕方がない。
「好きな人の前で猫被って何が悪いの?それだけ良く思われたいってことでしょ?何も知らないくせに好き勝手言わないでよ」
「じゃあついでにもう一個聞くけど」
目を細めて、眉間にしわを寄せながら話す月宮さんは、見てないようで周りを見てる人なんだと気付いた。