願うは君が幸せなこと
「お前、それで幸せ?無理して良い人ぶって、それなのに付き合ってることは誰にも言えない。内緒にさせられる。それで満足?」
「アンタには関係ないでしょ!?」
バン!とテーブルに手をついた。
店員さんが驚いたようにこっちを見ていることには、気付かないふりをすることにした。
正直、とても痛いところを突かれた。
何なんだこの人は。
四年先輩だか何だか知らないけれど、この人に敬語を使う気はまったく起きなかった。
全部、千葉さんは私の為を思ってくれているのだ。
私が女の子達に妬まれないように、私達の関係は秘密。
今みたいに急にデートが中止になったって、きっと次の約束のときに今日より楽しませてくれる。
だから私は千葉さんのために、良い彼女でいたいのだ。
「関係ないな。ただ、お前見てると苛つくんだよ」
「私だってアンタ見てたら苛つくわよ」
思い切ってそう切り返すと、月宮さんは不意を突かれたような表情になった。
そして、弾かれたように笑い出した。
「はははっ!お前……ぶっ!」
「ちょっと、何がおかしいの」
心底可笑しそうにケラケラ笑う月宮さんを、唖然と眺める。
訳がわからないし、ツボもわからない。
放っておくに限る。
とにかく早く食べ終えて、解散したい。
肩を震わせている目の前の人を視界に入れないようにしながら、とんでもなく美味しい料理をもったいないスピードで食べていく。
ひとしきり笑ったらしい月宮さんが、目尻に滲んだ涙を拭いながら顔を上げた。
その時ふいに、視界に入れないようにしていたその顔を見てしまった。
「気の強えー女」
一瞬、ほんの一瞬、月宮さんの楽しそうな笑顔に釘付けになった。
この無愛想で口の悪い男が、こんなに楽しそうに笑うのかと思った。