願うは君が幸せなこと

意外な一面を知って多少動揺しつつ、目の前にある最後の料理に手をつける。
さすがにお腹は満腹。だけど、せっかく千葉さんがご馳走してくれたのだ。残すわけにはいかない。

「……見てない時まで頑張らなくていいのに」

「え?なに?」

「別に」

夏美の言いつけを律儀に守っている月宮さんが、グラスを空にした。
私がもう少しで食べ終わると思ったのか、それ以上は頼まないようだった。

「ご馳走様でした」

とても美味しかった。
今度はゆっくり、また千葉さんと来れたらいい。その時は、もっとちゃんと味わって食べよう。

「はいお疲れ」

息つく間もなく月宮さんが席を立つ。
そのまま千葉さんが置いていってくれたお札を持って、スタスタと歩いていってしまう。

「ち、ちょっと待ってよ」

慌てて鞄を持ち追いかける。
口は悪いしせっかちだし、落ち着かない男だと思った。


会計を終えて店の外に出ると、夜風が心地良い。髪が顔にかかりそうになって、耳にかけた。

隣に立つ男を見上げる。
不本意とはいえ、付き合わせてしまったし、お礼くらいは言うべきだろう。
もう二度とこうして会うことは無いだろうけど、一応同じ会社の社員でもあるのだ。

「あ、あの」

「じゃあ俺、会社戻るから」

解散、と小さく呟いた月宮さんが、面倒臭そうに手をあげた。

「え?会社に戻るの?今から?」

「文句ある?」

「それなら、やっぱりあの時千葉さんと夏美と一緒に行けばよかったのに」

思ったままを口に出すと、月宮さんはチラッと視線を寄越して、それから盛大なため息をついた。
馬鹿にされているような態度に少しムッとしてしまう。

「お前、福島の話聞いてなかったのかよ」

「夏美の話?」

何のことかと思い聞き返すと、月宮さんの眉間のしわが濃くなった。


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