願うは君が幸せなこと
「見るな」
短く、小さな声でそう言った月宮さんが、掴んでいる私の手首を引っ張った。
私の身体はそのままよろけて、エレベーターのドアと反対、奥へと引き込まれる。
だけどもう遅い。
見てしまった。
七階にある部屋のドアが開いていて、ちょうどエレベーターから中が見える。
フロア全体はもう人気がなくて薄暗いのに、その部屋だけは電気がついているので、よく目立っていた。
「……」
月宮さんが何かを言いかけて、だけど口には出さずに飲み込んだ。
そして、私を中に残したままエレベーターのドアを閉めた。
私は、閉まったドアをただ呆然と見つめた。
まるで足に根が生えたように、そこから動けなかった。
整理整頓されたものから散らかったものまで、デスクがいくつも並んだ部屋の真ん中で、千葉さんが誰かとキスをしていた。