願うは君が幸せなこと
2


「はあ……」

口から情けないため息が漏れた。

駅から会社までの道を歩く足には、昨日とは全く違うほぼペタンコのパンプス。
朝から綺麗に澄み渡った青空が、少しだけ恨めしい。心の中の澱みを照らされてしまいそうだから。

昨晩寝る前、朝起きたら全部夢であればいいと何度も何度も思った。
だけど、頭の中に鮮明に残った記憶が、寝ても覚めても一向に出ていかないのだ。

「おはようー!」

「わっ!」

会社までもう少しのところで、バシッと背中を叩かれた。
驚いて振り返ると、手をひらひらさせながら夏美が立っていた。

「おはよう…、びっくりした」

「あれ、どうしたの?テンション低い」

夏美はいつもと同じようにハキハキと元気が良くて、眩しい。
でも今の私には、夏美みたいに元気よく笑うことが出来なかった。

「ねえ、昨日どうだった?」

「え?昨日って……」

結局昨日は、会社で夏美の姿を見かけなかった。夏美のほうこそ、どうだったのだろうか。

「ほら、月宮と。あいつ全然喋らなかったんじゃない?無理矢理一緒にお店に残しちゃったから心配してたの」

「ああ、そっちね……」

なんだか一気に気が抜けて、ついそう漏らすと、夏美が不思議そうな顔をした。

「月宮って見た通り、無愛想で失礼な奴なんだけどさ、あれでなかなかいい所もあるのよ」

「本当に失礼な人だよね。人を苛立たせる天才っていうか、いちいち一言多いっていうか」

「あはは、祐希も結構ハッキリ言うわよね」

確かに自分でも思う。
月宮さんに対しては、つい何の遠慮もなく発言してしまうのだ。
まあ、あんな酷い人に遠慮する必要性を全く感じないのだけど。

「ていうか、ごめん、月宮さんって……」

「あ!やばい、私今日朝一の外回りに同行するんだった!先行くね!」

「え、あ、うん」

慌てて会社へと走り出して言った夏美の背中に向けて、小さく手を振る。
あんなに急いで、転けないか心配になった。
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