願うは君が幸せなこと
「おはようございます!」
意を決して営業一課のドアを開けると、いつもと何も変わらない風景がそこにある。
いつもと違うのは私ただ一人。
今日は既に出社している千葉さんも、自分のデスクについていつも通り長い脚を組んでいる。
いつも通り。
私が営業一課に配属されて、千葉さんと初めて会った日から今日まで、何も変わらない。
つまり私は、浮気している千葉さんを全く見抜けなかったということだ。
私が席につくのと入れ替わるように、夏美が立ち上がった。もう外出の準備が出来たみたいだ。
「瀬名さん、おはようございます!」
「おはよう創くん」
にこやかに挨拶をしてくれる創くんに笑顔を返しながら、脳を仕事モードへと切り替えていく。
今日はより一層気合いを入れておかないと、何かがプツンと切れてしまうような気がした。
上着を椅子にかけて、パソコンの電源を入れてから下ろしていた髪を一つに縛った。
「瀬名、ちょっと」
「はい」
課長に呼ばれ、席を立つ。
一課の課長は、社員個人個人の特徴を生かすスタイルをモットーとしているらしく、比較的のびのびと仕事が出来る環境を作ってくれている。
三十代後半のがっしりした豪快な人で、前の課長が転勤になったのをきっかけに課長に就任したと聞いたことがある。
「この資料なあ、創に昨日作らせたんだが」
「創くんにですか?」
課長から資料を受け取り、目を走らせてみると、創くんの自己分析表だった。
これは、入社して一年以上経ち、ある程度の仕事を一人でこなせるようになると作成するもので、営業部の伝統みたいなものだった。
もちろん、私も二年目の時に作ったことがある。