願うは君が幸せなこと
見た所、創くんのこの資料はよく出来ているように見える。
「どこかに問題がありましたか?」
「問題っつーかなあ。自分の弱点をいまいち分かってねえんだよな…」
課長がガリガリと頭をかきながら、困ったように眉を寄せた。
自分の強みや弱みを自分で見極め、自分なりにそれを補った上で自分の成績を上げる、というのがこの資料の趣旨だ。
言い換えれば、自分自身と向き合うということ。
「弱点、ですか……」
ペラペラと資料をめくっていく。
創くんがこれまでに獲得した顧客や、その特徴が示された表があった。
「真新しい会社ばっかだろ」
「…確かに」
「あいつは、でかい会社とか古い会社が苦手らしいな。ずっと贔屓にしてもらってる会社の契約更新さえちょっと危うい」
会社としては、出来たばかりの会社よりも、安定感のある伝統的な会社との契約のほうが利益は大きい。
そこが苦手ならなるべく早く克服しないと、創くんの後々の成績に大きく影響してくるだろう。
チラッと後ろを振り返ってみると、創くんは真剣な顔でキーボードを叩いていて、私達の会話は聞こえていないみたいだった。
その一生懸命な横顔を見ていると、頑張って欲しい、という思いが湧いてくる。
ページをめくると、弱点への改善点が書かれていた。
「……あいつはその理由を、まだ入社二年目で不慣れなところがあって、経験が豊富でないからだとしてる」
「そうではないと?」
「もちろんそれもあるけどな。ま、ちょっと面倒みてやってくれよ。補佐するだけじゃなくてよ」
「わかり、ました」
ガタイのいい課長にバシバシと肩を叩かれて、よろけそうになりながらも頷いた。
去年までは先輩のもとについて補佐をしていたけれど、今は違うのだ。
自分に出来ることは何か。今年はもっと強く、それを考えていくべきなのだろう。