願うは君が幸せなこと
資料室は、四階の一番奥にある。
部屋一杯に棚が置いてあるそこは、基本的に自由に出入りしていいことになっているので、鍵はかかっていない。
エレベーターの中から資料室のドアを開けるまで、千葉さんは何も言わなかった。
それが普段の千葉さんらしくなくて不気味で、私は更に身を硬くした。
「久しぶりに来たなあ。いつも補佐の子が資料集めて来てくれるから」
「……そうですか」
笑顔を作っている千葉さんに向けて乾いた笑いを返しながら、右端の棚へと向かった。
そこには、色んな人の自己分析表が残してある。創くんも作ったあれだ。
今はもう営業部にいない人や役職についた人のものが、ここにまとめて置いてあるのだ。
その中から参考になりそうなものをピックアップして創くんの役に立てればと思い、ここに来たのだけれど。
「俺も手伝おうか?」
「あ、いえ。これだけなので大丈夫です」
適当にここ数年分のファイルを抜き取る。
見られていては落ち着かないので、課に戻ってからゆっくり見よう。
「それで、用事というのは……」
「そうそう、昨日はごめんね、せっかくのデートだったのに」
そのことか、と思い少し体の力が抜けた。
ほっとして息をつき、首を横に振ってみせる。
「いいんです。千葉さんはお忙しいですし」
「祐希には我慢ばっかりさせちゃってるなあ」
ははっ、と千葉さんが笑う。
祐希、と下の名前で呼ばれたことに驚いた。
千葉さんは、いつどこで誰に見られているかわからないと言って、社内では絶対に私のことを苗字でしか呼ばないからだ。
「大丈夫ですよ」
「……大丈夫なの?」
ふいに、千葉さんの顔が真剣なものに変わった。
さっきまでの爽やかな笑顔はすっかり消え去って、少し怖いと思うくらいの真剣さだった。
「見てたでしょ、昨日」